自伝「オイラとギター」リニューアル 第8章 公民館にて

自伝「オイラとギター」リニューアル 第8章 公民館にて

 

何人ものかわいくない女子がカセットテープを
持ってくる日は続いた。

「これに弟さんの素顔を録音してきて!」

「よかったよねえ、弟さんの素顔!」

「弟さんはギターは弾けないの?」

「弟さんは、彼女いるの?」


知らん!消えろ!


授業終えた日本史の先生が、生物の先生と似たような事を

「昨日の歌、よかったぞ!何て曲だっけ?」

「おまえのギター、全く聞こえなかったぞ!
 ちゃんと弾いていたのか?」

知らん!消えろ!
と口に出しては言えない。
受験控えているし。

 

テープの申し込みは、耐えなかった。

我が家のカセットテープレコーダーは、W(ダブル)ではない。
よってダビングができない。

よって毎回、テープの数だけ歌を録音しなければ
ならないのだ。かなり面倒だ。

10本以上録音してくると、かなり疲れてきて
それ以降は、素顔の1番だけしか録音しなくなった。


ある日の事我が町に、あの松山千春がやってくることになった。
こんな小さい町で松山千春がコンサートをやるのだ。
学校では、その話題で持ちきりだ。

またまたかわいくない女子連中が教室の中で、なにやら
松山千春の話をしている。チケットがとれたとかとれないとか。

ふ~ん。。。松山千春ねえ。。。あんまり興味ないかなぁ~
北海道のフォークシンガーで、あんまりテレビには出ないって
ことしか情報はなかった。


しかしこれを最後に松山千春が、この町にやってくることはなかった。


  後日談

   家内(前妻)と私は同じ高校出身。当時の話を振り返った
   家内(前菜)もむかしこの松山千春のコンサートに行ったそうだ。
   市民会館でそのコンサートは行われた。場内はほとんど女子一色。
   ステージには、白い巨大なスクリーンだけがあった。なんとその松山千春
   コンサートはフィルムコンサートだった。

   1曲目がはじまるとなんと会場全体から
   手拍子。1曲1曲が終わると大拍手。中には「ちはる~っ」と熱狂する女子も
   いたとか。そいつらおかしいよ。絶対。
   最後までフィルムコンサートだって気づかなかった女子もいたとか。

   それも絶対ウソだね。

   最後立ち上がってアンコールの手拍子までした女子もいたとか・・
   うるさい!もういい!


受験勉強の合間にギターの練習をする。
ギターの練習の合間に受験勉強をする。

度が過ぎると、親父やお袋から「勉強しろ」と怒られる。
もっとギターの練習をしてギターでメシが食えるようになれとか
そんな無謀は言われない。まあ親として当然である。

なにはともあれ弦をはりかえたばかりのギターは、爆発的にいい音がする。
どんな安物のギターでも弦張り替え直後はそれなりにいい音がするものだ。
でもそれは1週間ともたない。どんどん音は曇ってくるし
とくに低音の6弦5弦の音質が、ギター本来のもっている音色にどんどん
近づいてくる。残念なことである。

ある日の事、ギターが弾ける連中5~6人集めて、近くの公民館で
腕前のお披露目会をやることになった。女子にも声をかけた。
だけど女子は誰もこなかった。一人も。

さすがにここ東京では、駅とか街角とかでストリートミュージシャンなるものが
我ここにありと熱唱しているが、当時の田舎の村ではそんな人間など
誰もいない。田んぼへ向かう農道でギター片手に歌ってでもみろ。そりゃあ大変な
悪い噂が村全体に流れるのは目に見えている。だからこっそり公民館に集まるのだ。
まるで異端者の集会だ。

その公民館に集まった連中のギターは、みんな2万円前後のギターだった。
オイラのギターは25000円のTOPだった。
それだけでも結構上機嫌である。
かと言ってギターの腕前は、まるで、ともなっていない。

みんなギターケースからいっせいにギターを取り出すと
チューニングを始めた。

おい!うるさいよ。順番にやろうよ。だけど
みんなそれぞれ音叉をテーブルの角で叩いてギターのボディに当てる。
おかまいなしだ。うるせえんだよ。きみたち!


中にはボディに当てるのではなくて歯で噛んでいるヤツもいた。
歯から体の内部をつながって耳の中に届くらしい。

へえ~っ!


みんな、音叉で5弦だけ合わせて、他の弦はハーモニックスで
合わせていく。

みんな、やるじゃな~い。

今もそうだが、チューニングが昔から苦手だった。
なんで音叉のあの「キーン!」という音に弦の音を合わせられるのか?
不思議だ。

1回のキーンという音の時間内に、音の高さをつかめない。
よって、音叉で何度も何度もテーブルの角を叩くありさまだ。

友達が聞いてきた。
「おまえ、何やってんだ?」

い、いかん!チューニングできないのがばれてしまう。

「もしかして、おまえ、音を合わせられないのじゃないか?」

「な、何を言うかぁ!」

「オレが合わせてやろうか?」

「うん、たのむ!」


おやつも飲み物も持ち寄った。
1リットルのコーラやスプライト。当時はペットボトルではなくて
ビンだった。さらにこのビンを買ったお店に持って行くと、お店からビン代30円をもらえる。

コップはなかったので、公民館の湯飲み茶碗を使った。湯飲み茶碗にコーラを入れる。
見た目があんまりおいしく見えない。飲んでみる。コーラの味にファンタオレンジの味が
混じっている。誰の仕業だよ。

一人が歌い始めた。
吉田拓郎の「落陽」。イントロがかっこいい。この時はじめて落陽という曲を聴いた。
吉田拓郎の落陽を聞く前に、友達の落陽を聞いたのだ。

歌い始めていきなりゲップをしやがった。コーラのせいだ。
そいつは、「ちょっとたんま!」と言って残りのゲップをすべてする。
気持ち悪いほどゲップの出るやろうだ! コーラのゲップはすごいなあ

そしてまたイントロからやりはじめる。
おい、続きからやれよ。時間がもったいだろ!