小説「花の大江戸フォーク村ぴのきおらんど物語」その5
みゆきとまっちゃんの出所まであと3日
場面は変わり、ここは
大江戸フォーク村ぴのきおらんど。
カウンターには客がたったの一人。
オレはカウンターの中で、グラスを拭きながら
壁のカレンダーの3日後の赤い丸印に目をやる。
カウンターの客がつぶやいた。
「どうちゃん、長かったねえ。。あれから3年。」
カウンターの客はいや~ん。
50目前のサラリーマンで糖尿病を患っている。
いや~んは続けた。
「出所祝いのパーティーとかやるの?」
長かった。この3年。みゆきが刑務所に入りそれからというもの
店は閑古鳥が毎日鳴いている状態が、続きながらも
なんとかこの「ぴのきおらんど」だけは守ってきた。
この出所の日をどれだけ待ちわびた事か。。。
「パーティーかぁ・・人は集まんないよ。。。」
あの事件以来、客の足は減った。この1週間でも客は3人
しか来なかったなぁ~
「そういえばさ、いや~ん、くらちゃんどうした?この3年全然見ないけど」
「あれ?どうちゃん知らなかったっけ?くらちゃんさ、3年前この店にくる途中で
山手線鉄道警察に捕まって、それが会社にばれて会社クビになってさ。
それから田舎の山口に引き上げて、ふぐの料亭を開いたはいいんだけど
うっかり毒抜かないで、客に出しちゃって、お客さん15人全員入院させて
その店も営業停止になっちゃってその後の、消息は不明かな?」
「へえ。。知らなかった。くらちゃんもいろいろ大変だったな」
「でも噂は聞いたんだけど、確かじゃないんだけどね、その店潰して
松茸の販売を始めたんだけど、その松茸は松茸じゃなくて全部毒きのこだった
みたいでさあ。。。それを買って食べた人全員中毒になったらしくてさ」
「いや~んさ、話作ってねえか?」
いや~んは、グラスの酒を飲み干すと表情が一変した。
そして低い声でこう言った。
「情報元は明かせないんだけどさ、まっちゃんが脱獄を計画してるみたいなんだ。」
「はあ?」
「その脱獄にオレ、手を貸すことになってさ。。。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て、おまえ何言ってるんだ?」
「まっちゃんには借りがあってさ。今回手を貸す。おれは決めた」
「あのさ、脱獄しなくても3日たてば無事に出所できるんだぞ」
「どうちゃん。理由は聞かないでくれ。」
「まだ聞いてねえよ」
「その脱獄をどうちゃんも手伝ってほしいんだ!たのむ!」
「はぁああ?」
時計を見るともう22:30を回っていた。
「無理だったらいいよ・・おれ・・一人でやるから」
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その6に続く