小説「花の大江戸フォーク村ぴのきおらんど物語」その6
これは物語であり、登場人物の名前やお店の名前は
実在の名前とは全く関係がありません。
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ここは神田のフォーク酒場。
みきちゃんは、カウンター越しに話しかけた。
「あれから3年かぁ~」
「よせやぃ!思い出すじゃねえか」
「江戸っ子か!」
みきちゃんが話しかけているのは、3年前銃弾に倒れ
生死をさまよった「総理」である。よくぞ死の淵から生還したものだ。
総理はワイングラスをぶるぶると震わせながら、
柿の種を一気に、ほおばりそしてむせて、咳き込んだ。
咳き込んだ勢いで、鼻から大量に
柿の種が飛び出した。
「江戸っ子か!」
一言言うとみきちゃんは、厨房に引っ込む。
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総理はつぶやいた。
「おれは、あの二人の女を絶対に許さん・・・
そう。。やられたらやり返す。オレの流儀だ」
「江戸っ子か?」総理は自分でつぶやいてほくそ笑んだ。
総理は密かに、あの二人が出所前に脱獄を計画している情報を
入手していた。脱獄直後にその二人を暗殺する計画も
1年前から入念に作り上げていたのだった。そして刺客も
すでに明日の夜の脱獄に向けて、送り込んでいた。
300メートル先の獲物をライフルで正確に射止める凄腕のスナイパーを。
スナイパーには大金を払った。
ついにこの恨みを晴らす時がやってきたぜ。
足がつかないように殺害が終わるまでスナイパーとは
いっさいの連絡はとらない。
また1年間練り込んだこの殺害計画は完璧なものだった。
1点を除いては。
その1点とは、刑務所の名前だった。
彼女らが収監されているのが、栃木刑務所。
総理が、勘違いしているのが、府中刑務所。
刑務所が違っていた。
全然違うこの府中刑務所に、スナイパーを差し向けていたのだ。
その事に、全く気がついてない総理は不敵な笑みを浮かべながら
店を後にしたのだった。
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そしてとうとう脱獄まで12時間を切った。