リニューアル「オイラとギター」その14

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そしてとうとう私の順番がまわってきた。

前に出る。パイプイスに座る。譜面代に長渕の歌の本を開く。

前を見る。

や、やばい。。。こんなにも人がいる。みんなが注目している。

静まりかえっている。

に、逃げ出したい。。。。。かなり弱気である。
元々心臓は小さい

カポを4に。。

自己紹介を先にやんなきゃいけない。

「え~。。。鹿児島出身で。。。。」

自分でもわかった。明らかにイントネーションが変だ。かなり変だ。

そのへんなイントネーションに反応してどっと笑いが起きた。

続けた。。

「長渕の(顔)を弾きます・・・・」

また長渕かよぉ!

誰かが言った。続いて別なヤツが

長渕の顔をひくの? トラックで?バスで?

笑いが起きた。

顔が引きつった。コロす!それ以上ちゃかすんじゃない!

そんなヤジに目もくれずイントロを弾きはじめた。

この(顔)は長渕の曲のギターテクニックの中でもベスト3に入る曲だ。

まわりがざわめきはじめた。

ふふふ・・オレのギターテクに驚いているな・・・
不安が傲慢にすぐ変わるのも私の欠点である。

前に座っているヤツの声が聞こえた

「チューニングが・・・・」

どうやらチューニングが狂ってるらしい。致命的だ。
どうも6弦が変だ
いや1弦も変だ
・・・・ほとんどの弦の音が変だ


さんざんだった。チューニングどころか間奏は噛むしエンディングも噛むし
声はふるえるし。。。。

落ち込んだ。かなり落ち込んだ。オレはへたくそだ。
胃の中のかわず以下だ。


説明会が終わり、廊下に出て帰ろうとすると一人の長身の男がニコニコして話しかけてきた。
この男とは今後4年間のつきあいになっていった。

さっき(祈り)を歌ったヤツだ。ギターがうまかったヤツだ。
長渕と同じ髪型をしていた。

その日は軽めの話をして下宿の電話番号を交換して別れた。

夕方のキャンパスでも学生は多い。
ギターケース片手にとぼとぼ歩いた。

おちこむなぁ。。。。

ギター持って2km弱の道のりはかったるいのでバスで帰った。

その夜、下宿でギターケースからギターを取り出すことはなかった。

電気ポットでお湯を沸かす。
インスタントコーヒーを飲む。おいしくない。

高校の時の友達から手紙がいくつか届いていた。
なんで一週間に1回も近況を報告してくるんだよ。
あのヤロウ!東京で結構さびしんじゃねえか?

オレも寂しいよ。。。今日が一番寂しい。。。

先輩がノックもせずに部屋にはいってきた。

「来週の金曜日空けといて!新入生歓迎コンパをやるから」

「どした?なんか暗いなぁ~ ホームシックかぁ?」


同好会で出会ったヤツの下宿に遊びに行った。
大学からかなり近いところにある。
6畳一間の下宿。玄関は靴が散乱。どこの下宿も同じようなもんである。

さすがは長渕ファン。壁には長渕のポスターが何枚も貼ってあった。
またカッセトテープが山ほど積まれていた。
エロ本も山ほど積み上げてあった。
伝説のビニ本もあった。

はじめて遊びにきてたのむから貸してくれとは言えなかった。

そして12弦ギターと6弦ギターが壁にはたてかけてあった。
生まれてはじめて近くで12弦ギターを見た。

へえ~ 12弦ギターって同じ弦が2本張ってあるんじゃないんだ。

ちょっと弾いていい。。。? いかん!またなまってる。

早めにこの鹿児島なまりをなんとかしないといかんぞ。

一本の指で2本の弦を押さえる。

Gのコードでジャラーンと弾いた。

すんげえ~。。なんて幻想的な音がするんだ。

そしてスリーフィンガーでGコードを弾く

さらに幻想的な音が。。。。 感動した。

「長渕がコンサートでよく使ってるよ。」

長渕のコンサートは一回も行ったことがない。

「7月に博多に来るけど、一緒に行かない?」

「行く!行く!」

そいつは、またおもむろにギターを弾き出す。「祈り」のイントロだ。
完璧だ。完璧にコピーしている。すごい。

明らかにオレよりうまい。
どこが違うんだろう。

6弦と5弦を弾くときの音の強弱のつけかたもオレと違う。

さらに一番違うところに気がついた。

なんていう弾き方だっけ? ハンマリングプリングオフだっけ?

そいつは、きれいに「音が転がる」のだ。

オレはきれいに音が転がりきれない。これは致命的だった。その弱点を結局
克服できずに20年以上たった今日まで続いている。