リニューアル「オイラとギター」その13

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電話が終わり、自分の部屋に帰る途中の先輩の部屋に立ち寄った。

電話の内容を話すと、先輩はゲラゲラ笑い出して

つられてオイラもわけわからくてゲラゲラ笑った。

「君はまた英会話の教材を買うつもり?」と

またゲラゲラ笑い始めた。

先輩が派手に笑い転げるので、それをみてオイラもおかしくなって

ゲラゲラ笑い始めた。バカである。

あ~。。あぶなかった。福岡は危険がいっぱいだな~

もう絶対だまされないぞ。

部屋にもどり、ギターで長渕剛巡恋歌をシャウトした。

うっぷん爆発だ。

そしたらさっきの先輩が鬼のような顔で私の部屋の扉を開けて

「おい!うるさい!」と怒鳴った。

さっきまでゲラゲラ笑ってたのに、なんて喜怒哀楽の激しい人なんだ。




下宿のご飯は、メニュー豊富だ。それにおいしい。朝ご飯にはいつも生卵が出る。

朝バタバタして朝ご飯を食べない時は、みんな生卵を冷蔵庫にしまう。

生卵にマジックでそれぞれ名前を書いて、夜、自分の生卵を取り出して食べるのだ。

不思議なルールだ。

また朝入れておいた卵が、夜食べようとしたらもうない。

これもどこにでもある上下関係の世界のルールである。

ふん!誰がそんなルール認めるか!ちくしょう!

ある日の夜、冷蔵庫を開けると先輩の名前の書いてある卵があった。

よし!世は下克上じゃ!とわけわからないことをつぶやき

その卵をとりだした。

ふふふ。。。食ってやる。

これは盗みじゃない。

復習じゃ・・・違う! 復讐だ!

その時だ。

先輩がバイトから帰ってきて食堂のドアを開けて

「今、メシ食ってるんだ? あ~疲れた・・・もうみんな飯食ったのかな」と言って

冷蔵庫を開けて

「あれ?」

そしてその先輩は、私を振り返った。

まさにそのときオイラは卵を割ってごはんに乗っけたときだ。

先輩は、割った卵の殻の自分の名前を見た。

やべぇ~

「すみません・・・・」素直に謝った。


「あっ、いいよ。いいよ。先に風呂に入ってくるわ・・・」


なんと優しい先輩だ。
逆の立場だったら、おいらはめっちゃ怒るだろうな。


3分くらいしてその先輩がまた食堂に現れた。

「悪いんだけど、タバコ買ってきてくれる?」と言って

1000円札をオイラに渡した。

小さい紙に1000円とマジックで書いてあった。

ふん!そういう事か!

「おつりで三ツ矢サイダーも買ってきて!」

まだ言うか!


4月の下旬、フォークソング同好会の部室を訪ねた。
ドアを開けると5~6人くらいの学生がいた。

「あのぅ・・・同好会に入りたいんですけど。。。。」

「あっ!新入生? 入部ね。わかった。来週の火曜日の17時にもう一回きてくれる」

「はい。。」

「ギターも持ってきて!」


そのまま初日は終わった。

大学まではバスが近かったが、歩いた。
2km弱の距離だ。バス代ももったいないし。。

実家から自転車を持ってくればよかったな。。。

下宿に帰ると高校を卒業して、東京の大学に行った友達から手紙が
届いていた。

高校の時の連中約40人で池袋でさっそく同窓会をやった と
書いてあった。
楽しそうに書いてあった。
池袋・・・何回か聞いたことのある地名だ。
ちなみに東京には1回も行ったことがない。

そして1週間が流れ、フォークソング同好会の説明会の日がやってきた。
ギターをソフトケースに入れ、下宿を出た。
昼間の授業を終え、一度下宿に戻ってきた。

部室ではなくて、教室で説明会はあった。
すでにコンクリートの廊下を教室に向かっていくと学生たちのざわめいた声が
次第に大きくなっていった。

居室に入ると40人前後の学生たちがいた。

先輩らしい人に
「入部希望?」と聞かれ席を案内された。

やがて部長らしき人が自己紹介をしたあとに、年間の活動内容を説明しはじめた。

一番のビッグイベントは秋の学園祭のコンサートだ。ここで

新入生をデビューさせますと言った。

その一言で血が沸々と煮えたぎってきた。もうやるき満々なのだ。

そして部長が言った。

「じゃあ、挨拶代わりに2曲ほどオリジナルを・・・ 実はライブ喫茶「照和」で
 毎週火曜日に歌ってます・・・・」

なんですとぉ?

あの照和で歌っているですと?長渕とかチューリップとか海援隊とか数々の
シンガーを生み出したアマチュアあこがれのあのライブ喫茶「照和」で・・・・

部長&副部長のコンピで歌い始めた。
テンポのいい曲だ。すばらしい。歌もギターも実にうまい。

曲が終わると教室中が大拍手につつまれた。

誰かが「ブラボー!」と叫んだ。

続いて誰かが「ブラジャー!」と続いた。

どっと笑いが起こった。
オイラも笑った。


曲が終わると部長は言った。

「じゃあ、入部希望の約15人のみなさんにこれから一番自信のある
 曲をこれから一人ずつ発表してもらいます」

げっ!ギターを持ってこいと言われたのはこういうことだったのか?
しかし、あわてることはない。
人前で弾く曲はすでに、決まっている。

長渕の「夏祭り」には絶対の自信があった。この夏祭りのスリーフィンガーで
度肝を抜いてやる。みてろよ。

オイラの順番は10番目。
ふふふ。。。腕がなるぜ!

トップバッターが前に出た。
学部と名前と曲目を紹介して歌い始めた。

「・・・です。長渕剛の夏祭りを弾きます・・・・・・」

えっ?
えっ?

かぶるじゃん。オイラやろうと思っていたのに。。。

夏祭りのイントロは、線香花火の音を彷彿させる。教室中はそのイントロの美しさに
静まりかえった。

か、完璧なスリーフィンガーだ。。。。
うますぎる。。。。。
負けた。。。。
完敗である。。。。


拍手がおこった。当然の大拍手だ。

部長が2人目の新入生が歌う前に、立ち上がり言った

「今年の新入生はなかなか手強いな!」

続いて2人目

「・・・です。同じ曲なんですがボクも長渕剛の夏祭りを弾きます・・・・・・」

部長が言った

「できたらさ、同じ曲じゃなくてせっかくだから違う曲にしてほしいんだけど」

「わかりました。。。じゃあ、長渕の祈りという曲を・・・」

いかんぞ。これはいかん。
自分のレパートリーがどんどん削られていく。。。

それにしてもこいつも完全に祈りという曲をコピーしている。



うまい。みんなうますぎる!

明らかにこの状況はまずい。

どうする?何をやる?困った。

それ以前に自分のギターテクニックのレベルの低さをこの二人に痛感させられた。

そして手のひらと股間にびっしょり汗をかいている自分に気がついた。

完全に舞い上がって失神寸前だ。。。