大切な友へ

「まじか?」

「おれは20才まで誰とも付き合ったことはなかったけんね」

「おまえ、もしかしてホモね?」

「コロすけんね!でもオレはほら熊みたいな顔しとうけん。もてんかったと。」

 

35年前の友との会話。

友は大学のワンダーフォーゲル

彼女は大学のスキー部

20才にしてやっと彼女が出来た。

そして俺たち3人は同じ大学の経済学部の西洋経済のゼミナールに所属してました。

 

友の名は森田

彼女の名は江里子さん

3人共21才。

 

偶然森田のアパートと私のアパートは徒歩1分圏内。

趣味もギター。

 

夜、ギター持ってやってきて

「曲つくったばい!聞いて。」

 

彼女へのラブソングたくさん作ってたなあ。。。

 

夕方、彼女が一人で私のアパートにやってきた。

「どうした?」

「森田くんがね、また質屋にテレビいれたとよ。池中玄大の再放送見せて」

放送が終わっても森田は迎えにこない。

彼女に聞いたら、どうやらやきもちを焼いてるらしい。

かわいいやつだ。

 

ある日、橋の上から下の川底の浅い流れがゆっくりの川へ彼女が定期入れを落とした。

橋の上にバス停がありバッグから勢いよく取り出したら、その勢いで

川へ落ちてった。

 

まあ青春ドラマのような展開ですよ。

川へ降りて定期を探す彼氏に胸打たれる彼女の絵が浮かぶ。

こいつドラマを地で行ってるじゃあーりませんか! でも

すぐ見つかると思いきや、何時間もかかったらしい。

ドラマみたいだったけど彼女は結構感動してたっけな。

 

ある日の事、彼女が言った。

「堂園くんも森田くんもほんとにカレーが好きやねえ。。。

聞いて。聞いて。森田くんの作るカレーは玉ねぎと缶詰のスパムしか入っとらんとよ。

じゃがいもにんじんも入っとらんと!」

「ほうぉ!そうね。おれはちゃんと肉もジャガイモも人参も入れてカレーつくるばい」

「でも堂園くんは、バーモンドカレーの甘口やろ?ほんと子供やね?」

 

 

「森田くんは酒ばっかり飲んで、堂園くんはタバコばっかり吸って

二人共将来、ガンになって早死するけんね。。。。。。それでもいいと?」

 

森田と彼女は大学卒業して結婚した。

生まれて初めての彼女と結婚した。

二人の子宝に恵まれて、二人の子供も家を巣立ち長男は東京へ

長女は京都へ。

 

電話で

「二人の子供がおらんようになって寂しかろ?」と聞いた。

「と思うやろ?それが全然違うとよ。結婚当初みたいに二人だけの生活が

新鮮ですげえ楽しかばい!あいつら(子供)もう帰ってこんでいいけん」

 

2年前森田が出張で上京した。

「あんな。。。江里子がさ、江里子がな。。。。ステージⅢで。。」

静かに話した。

「でもちゃんと抗がん剤で治療つづけとるけん。。今は髪が抜けとうけど

元気になったら今度東京に連れてくるばい。」

 

おれは言葉失いました。

 

学生の頃は酒も飲まない、もちろんタバコも吸わない、スキー部で連日

訓練で体を鍛えていた健康のお手本だったような彼女がガン?

それもステージⅢ?

 

森田は江里子さんに上京する時に

「堂園には話してくるけんね。。かまわんよね」

うなづいたそうだ。

 

そして先月森田からメールが届いた。

短い哀しいメールだった。

 

森田は付き合っていた頃から彼女をとてもとても大切にしてた。

それは結婚してからもずっとずっと。

妻じゃなくてたぶんずっと「恋人」だったんだろうな。

 

大切な友達が

どれだけつらかったか

どれだけ悲しかったか

どれだけの涙を流したか

・・・わからんよ

 

こんなとき何て言えばいい?

大切な友達なのに、「言葉」一つ見つからない。

 

ごめんな。。。

ごめんな。。。。